アーチリュート(Archlute / Arciliuto)

アーチリュートの胴体正面。3つのロゼッタとブリッジ、複弦

アーチリュート(Archlute)は、ルネサンス・リュートの高音域と、長い開放低音弦を組み合わせた撥弦楽器である。イタリア語では「アルチリウート(Arciliuto)」と呼ばれ、バロック時代の独奏や歌・器楽の伴奏で用いられた。

丸みのある洋梨形の胴体から長い棹が伸び、その先端に低音弦用の糸巻きを備える。外観はテオルボに似ているが、押弦する弦の長さや調弦に違いがある。本項では、アーチリュート一般の特徴と、掲載個体であるThomannの14コース・19本弦モデルの仕様を分けて紹介する。

上記は演奏弦のナット及びペグ。

上記は低音弦のペグ。

歴史

16世紀末から17世紀にかけて、イタリアではリュートの低音域を拡張する工夫が進められた。太く短いガット弦で低い音を出すには限界があるため、棹を延長して低音弦の振動する長さを確保する構造が発達した。

奏者・作曲家アレッサンドロ・ピッチニーニは、1623年の曲集の序文で、自らがアーチリュートの考案に関わったと述べている。ただし、当時の楽器名や形態は地域によって異なり、現在の分類と完全に一致するものではない。

アーチリュートは、低音の旋律と和音を組み合わせる通奏低音の演奏に用いられた。高音側にはルネサンス・リュートの調弦関係を保つため、独奏で複数の声部を弾き分けることにも適している。

メトロポリタン美術館には、ダヴィッド・テヒラーが1725年頃にローマで製作したアーチリュートが所蔵されている。この楽器は押弦側に6組の複弦、延長された棹に8本の低音弦を備え、全長は約180cmである。弦数や寸法には幅があり、ここで紹介する現代の製品と同一の仕様ではない。

楽器の構造

胴体の背面は、細長く薄い木材を接ぎ合わせた丸い構造を持つ。平らな表板には装飾的なロゼッタを備えた響孔が設けられ、弦は表板上のブリッジに結び付けられる。

指板の上を通る弦は、棹に結んだフレットを使って音高を変える。一方、指板の外側を通って棹の先端へ伸びる低音弦は、原則として押弦せず、開放弦として弾く。これらは単に他の弦に共鳴する弦ではなく、奏者が直接はじいて低音を奏でる弦である。

14コース・19本弦

「コース」は、ひとまとまりとして演奏する弦の単位をいう。1本の単弦でも、2本を組にした複弦でも、1コースと数える。

掲載モデルは、指板上の6コースが11本、延長された棹に張る8コースが8本という構成である。高音の第1コースだけが単弦、第2~6コースは複弦、第7~14コースは単弦となり、合計は14コース・19本である。複弦には同じ音高の組と、1オクターブ違う音高の組がある。

演奏方法と音色

胴体を身体の前で支え、右手の指で弦をはじき、左手で指板上の弦を押さえて演奏する。右手の親指は低音弦を受け持ち、ほかの指と組み合わせて旋律や和音を奏でる。

通奏低音では、楽譜に記された低音と数字などをもとに和声を組み立て、歌や他の楽器を支える。独奏では、高音の旋律、内声、低音を一つの楽器で弾き分ける。

複弦の響きと長い低音弦の余韻が重なることが特徴である。音色や音の立ち上がりは、弦の材質、張力、弦長、右手の触れ方によって変化する。

テオルボとの違い

アーチリュートとテオルボは、どちらも低音弦のために棹を延長したリュート属の楽器である。ただし、アーチリュートはルネサンス・リュートに近い高音側の調弦と複弦を保つ。

これに対して典型的なテオルボは押弦側の弦長も長く、高音側の第1・第2コースを1オクターブ低くするリエントラント調弦を用いる。外観や商品名だけでなく、弦長と各コースの実際の音高を確認することが、両者を区別するうえで重要になる。

Thomannの商品名には「Theorbo」も含まれるが、掲載されている調弦は最高音をg′とするG調弦であり、本項ではアーチリュートとして紹介している。

掲載モデルの仕様

以下はThomann「Arch Lute / Arciliuto Theorbo」の商品情報に基づく仕様であり、所有個体の実測値ではない。

  • 弦構成:14コース、19本弦
  • 表板:スプルース
  • 胴体:Chinarwood(販売元の表記)
  • 棹:メイプル、指板:ウォルナット
  • 押弦側の弦長:約66cm
  • 低音側の弦長:約104cm
  • 胴体の長さ:約48cm、全長:約125cm

調弦

本モデルの調弦を示す。

以下は演奏弦(6コース~1コース、1コース以外は2本構成)

以下は、低音源(14コース~7コース)

この調弦をアーチリュート全般の唯一の標準とみなすことはできない。特に低音弦は演奏する曲の調性に応じて変更される。科学的音高表記の数字はオクターブを示すもので、A4を440Hzにするか415Hzにするかといった基準ピッチとは別の情報である。

参考資料