ラヴタ(Lavta)

ラヴタ(Lavta)は、トルコのイスタンブールで発展した撥弦楽器である。ウードに似た洋梨形の胴体と、フレットを備えた細長い棹を持ち、オスマン帝国時代の都市音楽で用いられてきた。

日本語では「ラフタ」「ラウタ」とも表記される。また、ギリシャ語では「ポリティコ・ラウト(Politiko Laouto)」、アルメニア語では「ラヴータ(Lavuta)」とも呼ばれる。ポリティコはコンスタンティノープル、すなわち現在のイスタンブールを指す言葉である。

ウードに似た胴体を持ちながら、タンブールのような可動式フレットを備えていることが特徴である。

歴史

ラヴタの正確な起源は明らかになっていないが、18世紀末にはその存在を示す図像資料が見られる。

19世紀のイスタンブールでは、トルコ系、ギリシャ系、アルメニア系など、さまざまな文化的背景を持つ音楽家によって演奏されていた。

当初はケメンチェとともに舞踊の伴奏などに使用されていたが、19世紀半ばにはオスマン古典音楽の合奏である「ファスル(Fasıl)」にも取り入れられるようになった。

19世紀末から20世紀初頭には、タンブーリ・ジェミル・ベイ(Tanbûrî Cemil Bey、1873~1916)が独奏楽器としても使用し、その表現の可能性を広げた。特に、マカームに基づく即興演奏「タクシム(Taksim)」にも用いたことで知られている。

20世紀にはウードなどに取って代わられ、演奏される機会は減少したが、伝統音楽への関心の高まりとともに再び製作・演奏されるようになった。

楽器の構造

ラヴタは、洋梨を縦に割ったような形の胴体と、比較的細長い棹を持つ。

胴体はウードと同様に、薄く加工した複数の木材を接ぎ合わせて形成される。一般にウードより小型で、胴体も浅い。

表板には円形の響孔が設けられ、装飾的なロゼッタが取り付けられることもある。糸巻きを収める部分はウードのように後方へ折れ曲がっている。

弦は通常4コースで、低音側の1コースが単弦、残りの3コースが複弦となる7本弦の構成が一般的である。ただし、4コースすべてを複弦とした8本弦のものも存在する。

フレット

ラヴタの大きな特徴が、棹に巻き付けられた可動式のフレットである。

ウードには通常フレットがないが、ラヴタではガットなどの紐を棹に結び付けることでフレットを形成している。

トルコの伝統音楽では「マカーム(Makam)」と呼ばれる旋法体系が用いられる。マカームは単なる音階ではなく、音程の関係や旋律の進行などを含む音楽的な体系である。

マカームでは、西洋音楽の十二平均律とは異なる微細な音程が用いられることがあり、ラヴタではフレットの位置を調整することで、こうした音程に対応することができる。

この特徴は、同じく可動式のフレットを備えるトルコのタンブールと共通している。

演奏方法と音色

ラヴタは、ウードと同様に撥(プレクトラム)を使用して演奏する。

伝統的には鳥の羽軸やべっ甲などが撥の材料として用いられ、現在では樹脂製のものも使用されている。

ファスルの伴奏では、複数の弦をまとめて弾くことでリズムを強調する奏法が用いられる。一方、独奏では単音による旋律演奏や、マカームに基づく即興演奏も行われる。

音色はウードと共通する柔らかさを持ちながらも、比較的明瞭で、輪郭のはっきりした響きを特徴とする。

ウードやギリシャのラウトとの違い

ラヴタとウードの最も大きな違いは、フレットの有無である。

ウードはフレットを持たないため、奏者が弦を押さえる位置によって音程を連続的に変化させることができる。一方、ラヴタは可動式のフレットを備え、マカームに応じた音程を設定できる。

また、ギリシャにはラウト(Laouto)と呼ばれる撥弦楽器が存在する。

一般的なギリシャのラウトはラヴタよりも棹が長く、4コース8本の弦を備えるものが多い。クレタ島などでは伝統舞踊や民俗音楽の伴奏に広く用いられている。

これに対してラヴタは、オスマン古典音楽のファスルなど、都市の音楽文化と深い関係を持って発展した。

寸法と弦

本項に掲載した楽器の実測寸法は、

全長:約88cm
胴体の最大幅:約30cm
胴体の深さ約:15cm
弦長約64.5cm

7本の弦が張られており、1弦と2弦は非巻弦、3弦から7弦まではワウンド弦(金属巻弦)となっている。

各弦の実測直径は、

7弦(4コース):1.09mm
6弦(3コース):0.82mm
5弦(3コース):0.81mm
4弦(2コース):0.73mm
3弦(2コース):0.74mm
2弦(1コース):0.66mm
1弦(1コース):0.67mm
ワウンド弦は、芯となる弦の周囲に細い金属線を巻き付けたもので、弦の質量を増やすことにより、低音を得やすくする役割を持つ。

なお、これらは掲載個体の測定値であり、ラヴタ全般に共通する標準的な仕様を示すものではない。

調弦

ラヴタには複数の調弦が存在し、演奏する音楽や奏者によって使い分けられる。

伝統的な調弦の一つとして、以下の形式が知られている。

トルコの伝統的な音名では、ネヴァー(Nevâ)、ラスト(Rast)、イェガーフ(Yegâh)、カバ・ラスト(Kaba Rast)に相当する。

また、現代の演奏や楽器販売では、低音側からD・A・D・Aとする調弦も紹介されている。

トルコ音楽では音名の表記と実際の演奏音高に独自の慣習があるため、調弦を比較する際には注意が必要である。

参考文献

  1. Karakaya, Fikret(2003). “Lavta.” TDV İslâm Ansiklopedisi, Vol. 27, pp. 113–114. Türkiye Diyanet Vakfı.
    https://islamansiklopedisi.org.tr/lavta
  2. Aydemir, Murat(2018). Tarihsel Süreçte Lavta Sazı ve Lavta Öğrenim Kılavuzu(Lavta (Istanbul Lute) in History and Lavta Learning Guide). İstanbul Teknik Üniversitesi, 修士論文.
    https://polen.itu.edu.tr/bitstream/11527/18115/1/512592.pdf